事業の背景
近年、日本と中国の間で医療分野における交流が活発化し、訪日医療ツーリズムの増加、日本国内における中国人居住者の増加、外国人医療従事者の受け入れ拡大などにより、専門的な医療通訳・翻訳士のニーズが高まっています。 しかし、現状では医療通訳士の人材不足や質のばらつきが課題となっています。
(1) 訪日医療ツーリズムの拡大
日本の高度な医療技術を求め、中国からの患者が増加しています。特にがん治療、先進医療、再生医療などの分野では、日本の病院を訪れる外国人患者が増えています。しかし、専門的な医療通訳が不足しており、正確な診療が受けにくい状況 が発生しています。
(2) 日本国内の中国人居住者の増加
日本に在住する中国人は約80万人(2023年時点)を超え、言葉の壁による医療トラブルが増加 しています。多くの中国人が日本の医療機関を受診する際に、適切な通訳がいないため、誤診・治療の遅れ・患者の不安増大 などの問題が発生しています。
(3) 医療通訳の専門人材の不足と質のばらつき
現在、日本では外国人向けの医療通訳サービスを提供する機関が増えていますが、通訳者の専門知識や対応スキルにばらつき があり、統一された資格制度が十分に整っていません。医療通訳士には、単なる語学力だけでなく、医学知識、医療倫理、専門的な通訳技術 が求められますが、これらのスキルを持つ人材が不足しています。特に、中国語の医療通訳者は不足しており、専門的な訓練を受けた人材の育成が急務 となっています。
(4) 国際医療交流の促進
日本と中国の医療機関の提携が進む中で、相互の医療情報の共有、医療技術の連携 を促進するためにも、高い翻訳・通訳能力を持つ専門人材の育成が不可欠です。
事業の実施内容
本協会では、日本および中国において「国際医療通訳講座」を開講し、専門的な知識と技術を持つ医療翻訳・通訳士の育成を行います。
(1) 医療通訳士の養成プログラム
① 講座の開講
*日本国内および中国国内で「国際医療通訳講座」を開講
*オンライン講座も併設し、受講しやすい環境を提供
*初級・中級・上級の3つのレベルに分け、段階的なスキル向上を目指す
② カリキュラム内容
*医学基礎知識の習得
解剖学、生理学、病理学の基礎知識
各診療科(内科、外科、産婦人科、小児科など)の専門用語
医療機器・医薬品の基礎知識
*通訳技術の向上
医療現場での逐次通訳・同時通訳の技術
患者と医療従事者の間での円滑なコミュニケーション手法
医療通訳の倫理と守秘義務
*医療現場での実習
提携する病院やクリニックでの実習プログラム
模擬診療やロールプレイングを通じた実践トレーニング
*翻訳技術の習得
問診票、診断書、処方箋などの医療文書の翻訳
③ 受講資格と対象者
*医療通訳士を目指す日本人・中国人
*既に通訳・翻訳業務を行っているが、専門知識を深めたい方
*医療・看護・薬学などのバックグラウンドを持つ方
④ 修了試験と認定
*最終試験に合格した受講者には、「医療通訳士認定証」を発行
*認定資格を取得した通訳士は、本協会の登録医療通訳士として活動
(2) 医療通訳士の登録・派遣
① 登録制度の運用
*認定試験に合格した通訳士を本協会の「登録医療通訳士」としてデータベース化
*日本および中国の医療機関と提携し、必要な医療通訳士を派遣
② 具体的な派遣先
*日本国内の病院・診療所・介護施設
*中国国内の日本人向けクリニック・国際病院
*訪日医療ツーリズム支援機関
③ 継続的なスキルアップ支援
*登録通訳士に対して、定期的な研修やスキルアップ講座を提供
*医療業界の最新情報を共有し、常に高品質な通訳サービスを提供できる環境を整備
期待される成果
(1) 医療通訳・翻訳の質の向上
医療通訳士の専門知識を強化し、より正確で信頼性の高い医療通訳・翻訳を提供
(2) 外国人患者の医療アクセス改善
正確な通訳を提供することで、外国人患者が適切な医療を受ける機会を増やす
(3) 医療機関の業務効率化
医療従事者が言語の問題を気にせず診療に集中できる環境を整える
(4) 日中医療交流の促進
医療情報・技術の相互理解が深まり、日中の医療協力がより円滑に進む
今後も、本協会は専門性の高い医療通訳士の養成を推進し、日中間の医療コミュニケーションを円滑にするための取り組みを続けてまいります。